-No.2187-2018年09月17日(火曜日)
「コバンザメ」的〈腰巾着〉な生き方の真相
★知られざる実像★
なにしろ、ふざけた…というか、侮〔あなど〕られた…というか、ばかに妙ちくりんな名ではある。
水中ダイビングをしないボクは、「コバンザメ」という名を与えられた魚を、水族館でした見たことがない。つまり、触ったこともなければ、もちろん食べてみたこともない。…そう…食べたいと思ったこともなかった。
★なにしろ貧相な魚である★
ぼくは〈貧相〉というものに〈運否天賦〔うんぷてんぷ〕〉の不都合を感じる。じつに「ふとどき」で「不埒〔ふらち〕なものと思う。「貧相は外道である」と断じたいくらいの憤りさえおぼえる者ダ。
「コバンザメ」は貧相な魚である。
成長しても人間でいえば子どもくらい(70cm)の、やたら細長いだけの魚体は体高にくらべて体長が8~14倍に達するという。
そんなガラっぽい体には、鰓ばかりが矢鱈に目立つ。
体側には太い黒条がとおって、どこかしら、〝掃除魚〟で有名な「ホンソメワケベラ」に似たような…と思っていたら、なんと実際に「コバンザメ」の幼魚にも掃除魚生活をおくるものがある、そうな。
(要は、そんなふうな生き態の魚……)
★ぜんぜん光っていない、小判のヒミツ★
せっかく〈小判〉の名をいただきながら、きらびやかに輝くこともなく、ついでに勇猛な〈鮫〉とも全く無縁のスズキ目の魚である。
唯一、目覚ましい進化の冴えを魅せる頭上背面の「コバン」は、じつは背鰭の一部が変形した〈吸盤〉なのだが、コレがなかなか精巧なデキで。
ご覧のとおり、横向きに並んだ〈隔壁〉がミソで、これを操ることによって大型魚に吸い付いたり、あるいは離散したりする。
そのシステムは
①吸い付くときは、その大型魚に接触すれば、吸盤の隔壁が立ち上がる。
②…と、海水との間に水圧差を生じさせることで強力に吸着。
③この状態で、後ろ(尾の方)に引っぱられたって、なかなか、どうして離れる
ものではない。
つまり、大型魚が高速で泳いでもダイジョウブ!
④それで、事情が変わったときには、コバンザメは吸い付いた大型魚より早く泳
げばよい。
⑤すると、吸盤の隔壁は元のとおりに倒れて吸着力を失い、ぶじ離脱に成功す
る、という仕掛けダ。
こうして彼らは、行く先こそ「あなたまかせ」ながら、省エネ、気ままな旅ができてしまう。
★バガボンド(さすらい人)の悲哀か…★
ただし、その細長いだけの魚体からもワカルとおり、食生活は裕福とはいえないようだ。
クジラやイルカ、サメやカジキやウミガメなど、大型海洋生物(ときには外洋船などにも…)」に吸い付いて暮らし。
(イルカがジャンプするのは邪魔くさいコバンザメどもを振り払うためである…とする説もあるくらい、シツコイらしい)
その狩りのオコボレにあずかる…といえばイイようだけれど、それだって、よっぽどの大物でも仕留めめたときのほかは、大したことはあるまいし。
現実の日常は、吸着した大型魚の寄生虫を齧るとか、排出物を喰わせてもらう、くらいが関の山だろう。
こういう関係を「片利共生」とかいうのだが、実態は「おこぼれ寄生」にちがいない。
「コバンザメ」のもつイメージが、どうも、ぼくだけではない多くの人々のあいだに、パッとしない理由も、どうやら、そのへんにありそうな……
ぼくが最近になって見た、海の記録映像には、海底に並んだ6~7匹の「コバンザメ」が、吸い付くのに良さそうな「移動物件」が通りかかるのを、待っているらしい情景。
これには、ボク、わけもなく目頭がウルッとするのを抑えられなかった……
★見かけによらず旨い魚★
ただ、せめて「コバンザメ」の名誉のために、付言しておけば、このサカナ。
「好んで食べる人もいるくらい」
「外見からは想像もできないほど美味しく、白身に赤い血合いをはさん身肉は脂のノリもいい」
「親戚筋のスズキなんかより身質は上、舌ざわりからしてほのかに甘い」
「重宝な、いいサカナ、ばかにしちゃカワイソウすぎる」
…などなどと、評判がよく。
まだ食していないボクなんぞは、とりあえず「魚好きと言うワリにゃ…ねぇ」などと、陰口でもたたかれそうなアンバイである。
……………
ここは、ひとつ。
日本はもとより、ほとんど全世界の暖海域に棲み暮らす、この「コバンザメ」。
じつは、大型魚に吸着して移動するばかりじゃなく、みずからの力で遊泳、回遊もする、という生き態を讃えて。
海の「ヒッチハイカー」あるいは「ヒッピー」としておきましょうか!