-No.1998-
★2018年03月12日(火曜日)
★11.3.11フクシマから → 2924日
★ オリンピックTOKYOまで → 500日
★旧暦2月6日、上弦へ2日
(月齢5.8、月出09:06、月没22:57)
※昨日11日(旧暦二月五日)は、七十二候の「桃始笑(桃はじめて咲く)」。天気はざんねんながら荒れ気味でしたが、「春の予感の嵐」だったのかも。
◆2020TOKYOまで500日
一昨日10日は、ぼくにとって忙〔せわ〕しい日だった。
あれから8年目の《11.3.11》関連番組の放映がいろいろあった一方で、来夏の東京オリンピック代表選手を決めるMGC(マラソングランドチャンピオンシップ)レースへの出場権をかけて、国内最後の対象レ-スが男子&女子のダブル開催されたからだ。
日本で人気の陸上競技マラソン、「ぜひメダルをとって欲しい」願いから生まれたMGC制度、それはそれで素晴らしいこと、なのだけれども。げんじつ、こんどの東京オリンピックでのメダル奪取はアブナイ…そんな気配が濃厚なことは、このブログの2月8日記事『氷雨・低温に泣いた2019東京マラソン/ヤバイぜ……ニッポン・マラソン』でふれたばかり。
では、その直後の2レースは、どうだったか。
……………
まず、
女子の「名古屋ウィメンズマラソン」が
朝9時すぎにスタート。
天気は曇りで、暑くも寒くもない適当な気温の好条件。
レースの途中から降り出した雨も、冷たいものではなくてすんで影響は少なく。ついでに、ペースメーカーの〝誘導〟も東京にくらべると安定して、信頼感があった。
ただレースは、いつものとおり、後半に入ってペースメーカーがはずれた30kmすぎ、スピードアップして抜け出すアフリカ勢に、日本選手はついていけない。
【結果】
1位へラリア・ジョハネス(ナミビア)2時間22分25秒。ちなみにこれは、ペースメーカーに設定された目標タイムにピッタリ・フィット。
以下、2位から4位までケニア、エチオピアのアフリカ勢。
【日本人トップ】は
5位の岩出玲亜(アンダーアーマー)で2時間23分52秒(彼女はすでにMGC出場権を獲得している実力者)。
新たに【MGC出場権を獲得】したのは
8位福士加代子(ワコール)2時間24分9秒
9位上原美幸(第一生命)2時間24分19秒
10位前田彩里(ダイハツ)2時間25分25秒
11位谷本観月(天満屋)2時間25分28秒
12位池満綾乃(鹿児島銀行)2時間26分7秒
これで、女子のMGCレース出場資格獲得選手は14人、やっと、なんとかカッコウがついた、感じ。
……………
つぎに
男子の「びわ湖毎日マラソン」の
スタ-トは、昼12時すぎ。
こちらは始めから雨、体感も名古屋の女子のレースより寒かったようだ。
そのせいか(どうか…一部、後述する選手を除いて)外国勢に挑むほどの選手は現れないままにおわり、成績でも名古屋の女子を下まわる結果にすぎなかった。
【結果】
1位サラエディーン・ブナスル(モロッコ)2時間7分52秒
以下、2位から6位までがアフリカ・西アジア勢。
【日本人トップ】は
7位山本憲二(マツダ)2時間8分42秒
つづいて
8位川内優輝(埼玉県庁)2時間9分21秒
以上の2人は、すでにMGC出場権を獲得している実力者。
とくに7位の山本くんは、後半30kmすぎ、一度はトップグループの先頭に立ってリードするなど外国勢に対抗する姿勢を見せたことは高評価に値する。
新たに【MGC出場権を獲得】したのは
10位山本浩之(コニカミノルタ)2時間10分33秒
11位河合代二(トーエネック)2時間10分50秒
の2人だけ…は寂しいかぎり。
ちなみに、男子のMGCレース出場資格獲得選手は30人と、数はなんとか揃ったものの、ワクワク感からはほど遠く。
チームとして、現時点(まだ外国で開催される対象レースがのこっている)では実業団長距離界の名門、旭化成から一人もMGC出場資格獲得選手が出ていないのも、気がかりなことだ。
男子のレース後、瀬古利彦マラソン強化戦略プロジェクトリーダーは、
「MGCレースが愉しみ」
と語気をつよめたけれども、表情は笑っていなかった。
◆なぜ「日本人トップ」ばっかり、なのか…
成績が「ものたりない」ばかりでなく、ぼくには日本人選手の覇気のなさに不満がある。
ひとつには、報道のされ方。
「日本人選手のトップは…」ばかりが強調され、世界レベルでのことが除外されてしまっている。
まぁ、MGCという制度があり、まずは、その出場権を獲得するための条件として「日本人選手のなかで」と規定されている以上(やむをえない)のかも知れない…けれども、しかし、それにしてもダ。
それが選手の意識にもすっかり浸透してしまったのか、(主にアフリカの)外国勢にひけをとらない、もっといえば彼らと対等にわたりあっていくだけの、気もちをもてない(のではないかとさえ思える)状況が、真実ヤバイと思う。
ぼくは、このしばらく前に、NHKの再放送ドキュメンタリー(番組名は忘れた)で観た「ケニア選手のつよさの秘密」を分析する内容が忘れられない。
以下に、想いだすままに、その概略をお伝えしておきたい。
◆なぜ、いまケニア勢には勢いがあるのか
番組でレポーターをつてめていたのは、谷口浩美さん(日体大から旭化成、1991年東京開催の世界陸上 男子マラソン金メダリスト)。
谷口さんが訪れたのはケニア、標高2800mの高地にある「リフトバレー」と呼ばれる長距離・マラソンのトレーニングセンター。
そこでは、ケニア各地から選ばれた<育成選手>が合宿、鍛錬浸けの日々を送っている。
まず、その<自然条件>。
〇彼らが走力を鍛錬するのは、標高2,000~3,000mの高地である。が、そこは日本の高地のように寒くはない(寒さは筋肉を硬くするから、この自然条件は恵まれている)。
〇酸素の少ない高地での運動は、心肺能力を高め強化することが知られている。そこで緩・急を繰り返すサーキット・トレーニングに励むことで、より効果的に心肺と筋肉の能力を高めることができる。
つぎに<育成選手たちの出処>。
〇ここで指導を受ける若手選手は、その素質を見出された者だが、ほとんどが生計の楽ではない家の子たち。だから、トレーニングに励む目の色がちがう。
〇これらの子たちの親は、苦しい生計のなかからトレーニング費用を捻出。したがってその子たちは、一流の選手になって金を稼ぎ、親や兄弟の生計を助けようと必死だ。
〇ハングリーで、毎日がサバイバル。この条件ばかりは、いまの恵まれたほとんどの日本選手にはマネができない。
〇加えて、マラソンの賞金レースがあたりまえになったことで、ハングリーなアフリカの中・長距離選手がこぞってマラソンに進出した影響も大きい。
〇ほかの先進諸国の選手が彼らに対抗するには、別に新たな切り口を見つけて励むことが必須になる。
その<トレーニング生活>。
〇訓練走は日常、朝・昼・夕。規律と鍛錬の毎日には、日曜もない。
〇指導方針は、「休みなしに走る」「つよくなる近道はない」「練習はウソをつかない」。
〇高地の坂道をものともせずに駆け上がり、駆け下る。走りおえて直後も、軽いジャンプを繰り返すなどアップを怠らない。
※箱根の〝山上り〟は過酷にすぎるのではないか…と、ボクが考えていたのはアマかったようだ、むしろ脚力強化には必要不可欠らしい。それもトレーニング次第ということになる。
〇あとは、よく食べて、よく眠る。食事は練習後に、蛋白質を主に摂る。
〇水分もたっぷり、栄養たっぷりのスープをカップに何杯も。多い選手は1度に1リットルくらい飲む。かわりに練習や、レースでも30kmくらいまでは、水分補給をしない。
〇塩分を摂りすぎない。「塩分をとらないカモシカは早く走れるが、塩を舐める牛はのそのそ歩く」じゃないか、とコーチは言う。「走って、汗で顔が白くなるようでは、まだ体ができていないのだ」と。
〇筋肉マッサージを入念にする。それもトレーナー任せではなく、選手同士でおたがいさまにマッサージしあい、同時に人の体というものを知る手だてにする。彼らの筋肉はやわらかく、しなやかだ。
〇イメージトレーニングに、練習後、仲間同士で話しあい、学びあう時間を大切にしている。食後のミーティングや選手同士のコミュニケーションは、自分をたしかめ向上させ、同時にライバルの素質や特性、性格などを知るチャンスの場だ。
※最近の日本の選手には、コミュニケーションの苦手な人が少なくない
〇筋肉を弛緩させる酒は厳禁(ボクなんぞは天から失格ダ)。
<ランニング・フォーム>のこと。
〇アフリカ勢の強さを示す証拠は、「つま先からの着地」フォーム。
〇これは短距離走ではあたりまえのことだが、長距離走では逆に、欧米など世界の大勢は「踵から着地」が常識になっていた。…というか、「つま先からの着地」では長距離を走る筋力がもたない。
〇ところが、アフリカ勢は長らく裸足で歩く生活をしてきたことから、つま先で地面の状況を探りながら歩く訓練ができている、だから足まわりの筋力がつよい。このことは科学的な分析でも実証されている。
おしまいに<トピック>を2つ。
①かつて日本で長距離走を学んだダグラス・ワキウリというケニア出身のマラソン・ランナーがいた。瀬古利彦に憧れて来日、エスビー食品に所属して才能を開花させた彼は、1987年(ローマ)世界陸上マラソンで金メダル、翌88年のソウル・オリンピックでは銀メダリストになっている。彼は言う「こんどは日本の選手がアフリカに来て学べばきっと強くなるよ」と。
②リフトバレーのトレーニングセンターに「シャデラック・キプトー」という、ことし18歳の選手がいる。「キャデラック」と覚えると親しみやすい。彼の素質はコーチたちがひとしく認める「期待の星」。マラソン年齢は25歳がピークとして、順調に伸びれば7年後くらいには世界に知られる存在になっているかも知れない。マラソン・ファンは頭の片隅にでも覚えておいたほうがよさそうだ。
……………
どうだろう。なかでも、
「つま先からの着地」フォームと、「休みなしに走る」こと「つよくなる近道はない」こと「練習はウソをつかない」ことは、キーワードと言えそうだ。
「つま先からの着地」フォームは、大迫傑くん(早稲田からナイキ・オレゴン・プロジェクト)が身につけている、と聞く。
MGC出場資格取得選手で、みずから仕掛けて主導権を握ったかどうかは別として、結果、MGC対象レースで優勝しているのは、福岡国際の服部勇馬くん(東洋大からトヨタ自動車)だけ。
まずは、この2人の走りに注目。
MGCレースは半年後の秋、9月15日スタートである。