-No.1307-
★2017年04月20日(木曜日)
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◆雪国から雪きえる頃になると想い出す
雪国でも淡雪、きえかかる頃になると、(雪晒しもそろそろしまいだナ)と想う。
川水で洗って糊をおとした反物を、田んぼの雪の原に広げて干す、それを繰り返すだけで、お陽さまのおかげで布の下の雪が蒸発、オゾンを発生させて漂白、細かい汚れなどみんなきれいに吹き消してしまってくれる。
越後上布の里、魚沼地方を取材したとき、足もとからシンと沁みてくる冷たさと、陽に溶ける淡雪のなんとも言えないやさしさに、おもわず知らずブルッと身体がふるえた。そのときの感覚、40年ちかくたったいまだに鮮明なのだった。
雪に晒した布は、着古して糸をほどいたものでも、きれいさっぱり。
雪はまた人肌を色白に磨き、純米の酒も極上に磨きあげる。
麻の織物、平織りが「上布」、縮織りにしたのが「ちぢみ」。
さざ波のような「ちぢみ」がそよ風をはらむと、雪国にも春がやってくる。
麻織物の原材料は苧麻〔ちょま〕、「からむし」とも呼ばれる。
イラクサの仲間で逞しい繁殖力をもち、いまどきは雑草のように嫌われたりもするけれど、その繊維は人の手で繊細に生まれかわる。
苧麻からとれる幅1センチほどの、繊維を手指で裂いて細く細く、最後は髪の毛(0.1ミリ)ほどにまでする。1日たっぷり裂いてもせいぜい600本くらい、だから1反分の糸をとるのに1年くらいかかる。
「ちぢみ」の糸は、これに縒りをかけるのだが、たて糸は500回、横糸は倍の1000回も縒りかさねる。「縮み」の命だ。
縒りあげた糸は、縒りがもどるのをふせぐ糊をつけて、ようやく機織りにかかる。
機は、長い反物を織るのに適した地機か腰機。腰機は「いざり機」とも呼ばれる。
いずれにしても足を前に伸ばして坐り、これも布でできたベルトと太い紐で、腰と足で力を加減しつつ、糸の張りぐあいを調節しながら織っていく。
麻は芯の丈夫な糸だが、木質だからウールのようなしなやかさはなく、乾燥にもよわい。
雪国の冬は乾燥するから、機部屋には加湿がかかせない。ついでに暖もとる。
織りにも時間がかかるから、暮らしぶりが仕事にもあらわれやすい。
「家で喧嘩した日は機に坐るな」と、織子は笑う。
織り上がった縮みは、仕上師が湯揉み、糊をおとして絞り、横糸の縒りをもどすことで生まれる。
この「ちぢみ」仕事を「しぼ」と呼ぶ。「しぼ」は「皺」。
京都北山あたりで生産される床柱用の杉材に「しぼ丸太」という柄物があって。
プラスチックの舟型をさざ波が寄せるように杉の幹にあて、ぐるぐる巻きに絞りあげて成長させる。
仕上げは、杉の皮をむき、水をふくませた藁束で磨きをかける。
「小千谷縮」も「北山杉しぼ丸太」も、ぼくは仕事を見て知った。
どちらも「絞る」ことで、「縮み」の風合いを生み。
磨きあげるまで、手を抜かない……