-No.1263-
★2017年03月07日(火曜日)
★《3.11》フクシマから → 2189日
★ オリンピック東京まで → 1235日
◆「ほっけ柱」!?
ホッケという魚は寒海の幸だけれど、ぼくにとって「𩸽」はもじどおりヒマワリのごとき大輪の花。
まだ炉端焼きという営業形態が珍しい頃、北の酒場でホッケ(の干物)を注文すると、ドサッと一枚で焼き網を占領する勢い。
店の花”焼き方”が声を上げ、舟の櫂みたいなので焼きたてが目の前に運ばれてくると「ウォッ…デカッ」。
特注であろう楕円の大皿の端から、焦げ味ふりまく頭と尾が食み出しており。
のっけにコレを食べてしまうと、あとはもう腹に入らないほどだった……
青みをおびて緑色がかった褐色の魚体、くすんで黒っぽい帯を巻いたような見た目は、アイナメの仲間とはいえ、お世辞にも旨そうな魚とはいえず。
身も鮮度が落ちやすいために、以前はもっぱら北の浜の地産地消。それも、ほとんどが干物にされて。
「ニシンに逃げられた後釜がホッケよ」
漁師がぼやいたものだったが、成魚になると60cmほどにはなるから、大きいのは半分にしないと炉端焼きの皿におさまらない。
この魚の美点は、骨ばなれがよく身もほぐしやすく…下手な魚喰いにも喜ばれることと、淡泊にもかかわらず脂がのって食感もいいところ。余談になるが、呑兵衛には燻製の味わいにもすてがたいものがある。
冷凍技術のすすんだいまは、東京あたりでも干物の評判が高く、シマホッケ(キタノホッケ=マホッケより深い海に棲む)の名はブランド化しつつあるほど。
同時に北の産地では、刺身や煮つけ、フライなどでも食べられるようになってきた。
……………
そんなホッケが、「ほっけ柱」になる。
といわれたとき、初耳には「人柱」の類いかとアヤシげに響いたが。
水中撮影の映像を観ると迫力ある摂餌行動の貴重な記録であった。
いつそれが起きるか、明らかな兆候が知られているわけでもなく、ただ産卵期(秋から春の間)前という時期だけが目安。
そのフィルムは、漁師たちからの情報をたよりに、待ちに待った日本海、奥尻島で運よく遭遇、撮影に成功したものという。
それを見た、水中の乱舞に見ごたえがあった。
ふだんは大陸棚の底近くを泳いで、底生の生物や海底へと沈降するプランクトンを餌にしているホッケたちが、産卵期を前に海面近く湧き上がり、群れになって上向きで泳ぐさまは、儀式か祭典を想わせて活力にあふれて華麗、イワシなど小魚の群れとはまた違った生態の妙を見せてくれる。
この集団行動によって海水に渦を巻かせ、その流れにプランクトンを巻き込んで捕食しやすくする(きっと量的にも期待されるのだろう)、と考えられているらしい。
ぼくの胸がふるえたのは、さらに、これら生物たちの行動の分析が、コンピュータ・シュミレーションに現実感をもたらしている、ということだった。
「Boids(ボイド)3ルール」とか呼ばれるものがそれで。
1.セパレーション=分離 → 仲間に近づきすぎたら離れる
2.アラインメント=整列 → 仲間と同じ方向に同じ速度で移動する
3.コアージョン=凝集 → 仲間たちの中心方向へと動く
の3要素を集合体の動きにもたせれば、点・丸のような無性格なものにも生命体の動きを見るような印象を付与できる。
実際に、この3ルールによって構成されたコンピュータ・シュミレーション画像を見ると、なるほど、まるで鳥か魚が群れうごくさまのようだった。
ちなみに、食欲・性欲・集団欲が人間の3大本能とされるが、このうちの集団欲が「Boids(ボイド)3ルール」の「凝集」にあたり。
これがひいては、外敵から身を守り、たがいに助けあって生きるための知恵「同調」、すなわち「整列」につながり。
なおさらには、そうした基本的には群れたがる集団のなかでも、一方には厳然としてある個の主張が「分離」にあたる…と。
こうした自然界の生きもの語りに出逢うたびに、人もまたその仲間であり上に立つ者としての責任を忘れてはならない、いつもの想いをまた新たにしたことだった。
ところで。
そんなホッケの最近事情をいえば、ほかの魚種とかわらない資源の減少に直面しており、価格も大衆魚のレベルから値上がりの傾向にある。
大ものの開きがヨコやタテ、二つにされていたりするとホント情けない気がしたものだけれど、それさえいまに昔語りになるかも知れない雲行きの今日この頃、「ほっけ柱」の幻にならないことを祈るばかり……