-No.1183-
★2016年12月17日(土曜日)
★《3.11》フクシマから → 2109日
★ オリンピック東京まで → 1315日
◆11月4日(金)、床暖房のこと
昨夜半、目覚めて窓から外を覗いたら、凍える冷気のなか雪の結晶が微かに部屋の灯りに輝くのが見えた。
なんだかウレシイような気分だった……
明けて。
きょうの天気、予報では曇りのち晴れ。
これは、本日から13日まで期間限定の新聞購読、その紙面情報である。
地元ツウはみなそうだという、朝刊が「道新」(北海道新聞)で夕刊は「勝毎」(十勝毎日=夕刊紙)。
現実は晴れというよりも高曇りで、高い空を覆った薄い雲を透して、くまなく光がもれてくる感じだった。
テレビもあるが、なぜかまるで見る気がおきない。
高い山脈を目の前にしていると、せこせこせまい世間のことなんか、どうでもいい気さえする。
気温は3度くらいまでいく(あがる)だろう、とのことだが、今朝はぜんぜん寒くない。
床暖の温もりのせいであった。
じつは昨日、あらためて挨拶がてら寄った「かみしほろ情報館」で、床暖が効かないと訴えたら。
「もっと、思いっきりバ~ンと、設定温度を上げてみて」
先任コンシェルジュのお姉さんが、ぱっきりと仰る。
(この方は、昨日は所用で留守だった)
それで、ぼくにはピンときた。
(これでもボク、旭川郊外で零下30度のなかを外出、マスクのせいで氷った睫毛を折って失くした経験をもつ)
北海道の冬は、「暖ったかい」んじゃなくて「暑い」くらい。
それは、なによりもまず、とにかくストーブが真っ赤になるくらいガンガン焚いて、室内の寒気を徹底的にはねのけてしまう。
すべては、それから。
だから、外は凍てつく猛吹雪であろうと、ストーブのまわりは熱帯の楽園、ランニングシャツ1枚で冷や酒グビグビ。
景気をつけておいて、しばらくのち、また雪除け(雪投げ)に吹雪のなかへ敢然と出て行くのだ。
帰宅後、そのとおりにして、みごとヤッタね。
ただ、このモデルハウスはオール電化だ、厳寒期ともなればタイヘンな電気代になることだろう。
ぼくたち、将来にわたって持続可能なエネルギーの在り方を考える者が、移住を考える際には、ひとつの大きな課題にちがいない。
ちなみに、このたび上士幌町の「生活体験モニター」、滞在したモデルハウスの賃貸料(電気・上下水道代など含む)は。
〇春期(4~5月)・秋期(10~11月)の、1泊2,000円也。
〇夏季(6から9月)が、1泊3,000円也。
〇冬期(12~3月)が、1泊1,500円也。
というのが、冬期の暖房費など考えるとよくわからない、けれども、これはきっと旅行動態一般にいわれるハイシーズンかどうかによる区別なのであろう。
あとは、管理費ほかの1泊1,000円(これは年間共通)が加算される。
これだけ。
ぼくらが借りたモデルハウス1号は、22.5坪(74.53㎡)の平屋(オール電化・床暖の一軒家)。寝具(ベッド)・食器など基本的な生活備品や器具類はそなわっている。
部屋は、ダイニングルーム・リビングルーム・ベッドルームの3つながり(移動式の壁でそれぞれを仕切れる造り)で、これに玄関と洗面・トイレ・バスルーム、キッチン・ユーティリティーが付属する。
つまり、不都合なく、ふつうに暮らせる。
◆11月4日(金)、閉鎖直前の三国峠へ
のんびり、リビング外の雪化粧にひたる。
「積雪」というには、ささやかすぎる「うっすら」だけれども、さりとて消えそうな気配もない。
まぎれもない旅人だが。
ぼくは、まだ「根雪」のはじまりを知らない。
いうまでもない「根雪」とは、降っても消えてしまう「あだな雪」とはちがって、消えずに次々と降り積もって雪どけのときまでのこる雪である。
とうぜんのことに始まりがあるわけで、この雪がそれになるのか、気にかかる。
昼になる前に、役場観光課を訪ねる。
他人〔ひと〕は「役場は役場」というけれど、ぼくは折あれば役場を覗く。
不思議なもので役場には、それぞれの自治体がもつ肌あいというか、いつわらざる雰囲気の一端が、けっこう明瞭に嗅ぎとれるものがある。
けっして、どこも似たようなものではない、はっきり言ってしまえば、用がすんだらもう二度と近寄りたくはない役場というのも、たしかに、まぎれもなく存在する。
初対面の担当の方に、ずばり尋ねる。
「この時季、いちばんに薦めたいところは?」
「三国峠ですね。峠の茶屋が明後日で今季の営業を終えて閉鎖になります、6日はお客さんが多いでしょうから…じつはぼくも家族を連れて行ってみようと思ってるんです…小さなお店はいっぱいで入れなくなるかも知れない。ですから、いまのうちに、です」
こたえ、明快。
じつは、ぼくも出発前の下調べで、6日の最終日に訪れてみよう気でいたのだったが。
「じゃ、行ってみましょう、これから」
直ぐに、車を走らせることになった。
ここ2年ほど、ぼくは雪道を走っていない。
いちおう、万が一にそなえてゴム・チェーンを持ってはいたが、ウィンタースポーツに趣味があるわけでもなし、もうリスキーなアイスバーン・ドライブからは足を洗ってもいいころだと、考えてもいた。
これまでには、「あわや」の危ない場面にも、幾度か遭遇してきている。
地吹雪の東北道、八幡平あたりのトンネル入り口で前の車がスリップ、あやういところで追突を回避したことがある。多重衝突事故になっていたら命はなかったかも知れない。
新雪が積もり重なったばかりの信州上高地、安房峠にほど近い白骨温泉付近の坂道では、こちらが急な上りにさしかかったばかりのところへ、不用意に坂上から突っ込んできた対向車があって万事休す、対向車はブレーキを踏んだまま坂を滑り降りてきて、最後はおたがいに運転席から「どうしようもありませんな」顔を見あわせたまま、スローモ-ションで正面から衝突。さいわい、誰ひとり怪我ひとつなかったのが不思議な事故もあった。
だからヒヤヒヤ内心ドキドキ、わずかな救いといえば、まだ酷寒の厳冬期ではないことだけだった。
糠平湖の見えてくるあたりまでは、まぁごくふつうの枯れた冬景色、状況のいいところは路面が見えており、日陰の厳しいところでも圧雪の程度は軽かったが。
ぬかびら源泉郷の集落をすぎると、とたんに舞台は厳冬へ、それにあわせるように空模様まで険しくなってきた。
圧雪路が硬く堅く絞まって、薄いヴェールを被ったような雪の下は直ぐ雪氷状態と知れる。
突風が樹々の枝の雪を巻きあげ、振り撒き散らして、視界が真っ白に閉ざされる。
動くに動けなくなった車内で、対向車が来ないことを願うのみ……
そんな過酷な道路状況下でも、道内ナンバーの車が雪煙あげて追い越して行く。
この道の走り初体験のドライバーは、口の渇きに耐え、カーナビの距離表示に頼るのみ。
これで季節が初夏の頃であったなら、吹きわたる風もここちよい山岳ルートであろう……と、いくら想像してみても慰めにはならない。
辿り着いた三国峠は、完璧に氷雪のなか。
ぽっかり口を開いたトンネルの向こうに大雪山、層雲峡があるとは、俄かには信じ難い。
峠は、風が巻けばほとんど地吹雪。
麓から上がってきた除雪車隊が、今季の初出場ではあるまいか、トンネルに吸いこまれ。
しばらくすると、また戻ってきてゆるゆると糠平方面へと下って行った。
峠の茶屋、「三国峠café」の窓から外の雪景色を眺めている先客の、どの顔にも今シーズン「おしまい」…と書いてある。
席数かぞえて16ほど、これでは明後6日の最終日は満席御礼、まちがいない。
おそいランチタイムにカレーライス、そのあと香ばしいコーヒーをいただく。
caféのオーナー夫妻の、住まいはぬかびら源泉郷。
「ぜひ、また、どうぞ。こんどは吹雪じゃなく、風薫るころに来てくださいな」
冬季閉鎖中は、糠平のスキー場の方で仕事があるそうな……