-No.0961-
★2016年05月09日(月曜日)
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◆フェアリー・サークルの主
ぼくの家は、町田市の横浜市寄り、「こどもの国」に近いところにあり。
住宅街の道はすべて舗装されているものの、けっこう土っ気は多くて、とくに緑道に面したわが家は恵まれた生態系(?)のなかにある。
わが家の庭には、野の鳥たちも来れば、アリもミミズもおり、ヤモリもトカゲもおり、クモは家の内外にいる。
アリは、ごくふつうに見られるクロアリだと思うのだが。
これが春、桜の頃になるときまって、庭のあちこちに穴を掘り、小さな砂山をこしらえながら巣作りに励む。
不思議なのは、秋になるときれいさっぱり姿を消してしまうことで、それがはたして痕跡ひとつのこさない冬眠なのか、はたまたどこか他所で冬を越し、春になるとまた戻ってくるのか…ワカラナイ。
わからないけれども、ぼくは子どものじぶんから、アリに対しては特別な感情の”綾”があった。
個をすててかかる集団の命に畏怖を覚えることもあれば、小さな個体群の膨大な仕事量に感嘆させられることもある、というふうに……
自然と生きもののドキュメンタリー映像に惹きつけられながら、ぼくはなかでも、アリがテーマになると、じぶんでも見る目の違ってくるのがワカル。
魚たちや鳥たちや、昆虫や爬虫類や両生類や、さまざまな哺乳類群や植物群とも、明らかに別な、一線を画した視点になっているのダ。
……………
世界遺産のナミブ砂漠の、赤みがかった砂の渇きを、これまでにどれほど多くのフィルムで見つづけてきたことだろう。
しかも、アフリカ大陸の大西洋岸にあって、世界一古い(約8000万年前)といわれるこの砂漠の場合には、「ロング・ウォール」の名で呼ばれる目覚ましいばかりの海との境界があって、色彩的にも驚きにみちている。
「ナミブ」は土地の言葉で「なにもない」ことだというが、とんでもない。
ぼくには、いつも新たな発見や報告があって、飽きることがない。
さて、今回は……
砂漠の、短い草っ原のなかに点々と、いっぱい広がって。
直径5mばかりのサークルができており、そのサークル内には草が生えていない。
草っ原で、そこだけ土がむき出しになっているので、それとワカル。
「フェアリー・サークル(妖精の輪)」、地元では「神の足跡」と呼ぶそうな。
もちろん、人工物ではない。
天然自然の造形と思われるが、何者がどのように造ったのかが、長い間の謎だった。
過去に、さまざまな説がなされたけれども……
2012年にドイツの研究者が、その成因が「シロアリの巣作りによる」ことを発見した、という。
このシロアリは、スナシロアリ。
巣作りをすすめながら(巣は円形に広がる)、草の根を食害。そのため巣が完成する頃には、草の生えない(無くなった)円形の窪地ができることになり。草の根に吸い上げられることのなくなった土の水分は保たれるため、ほかの土とは色が違ってくるし。そればかりでなく、ときに窪地には池のように水が溜まることもあるのだ、と。
そうして、さらには……
ナミブ砂漠には、このシロアリを主食にする生きものが、じつは少なくない。
ウサギのような耳をもつ珍獣ツチブタや、オオミミギツネ、ほかにモグラなどもいる。
「山椒は小粒でもぴりりと辛い」というけれど、「シロアリは小粒でも滋養たっぷり」というところか。
大陸は異なるが、インドにも、インドハナガエルとナマケグマという、シロアリを食べる珍しい仲間がいる。
インドハナガエルは、オタマジャクシが急な流れの岩壁に吸盤のある口で吸いつき、水苔を食することで知られる。
長らく親の生態が知られなかったのは、土に潜って暮らす生存法のためで、雨季直前の繁殖期以外は地上に姿をあらわさない。
ナマケグマも珍獣といっていい。
子を背負って運ぶ生態も珍しいが、その名のとおり鋭い鉤爪をもつ特異な体形から、かつてはナマケモノの一種と考えられていた変わり者で。
クマたちには蜂蜜を好む性癖が知られているから、案外シロアリも「テイスト・オブ・ハニー」なのかも……。
ぼくは、さっきアリの生態に感嘆や畏怖することがある、といったけれど。
それはたとえば、このような生態系に果たす役割の大きさであり。
また、あわせて260種ほどが知られているアリの仲間とその集団の、全重量を推計すると人類を凌ぐ、といわれるほどの驚異でもある。
……………
なお、ちなみに、「フェアリー・サークル」を作るスナシロアリには、セルロースが分解できる。
セルロースを分解できるかどうかは、食餌と生息域の上で重要な意味をもつこと、いうまでもない。
明日は、反対にセルロースを分解できないシロアリの話しをしたい。