-No.0773-
★2015年11月03日(火曜日、文化の日)
★《3.11》フクシマから → 1699日
高倉健没から → 358日
★ オリンピック東京まで → 1725日
◆イサリビガマアンコウ
寒い朝が身に染みるようになって、ふと「アンコウ鍋」を想った。
そんな折も折、ケーブルテレビ750ch〈アニマルプラネット〉で「イサリビガマアンコウ」とやら、妙ちくりんな名を与えられた魚の話しを観た。
北アメリカ五大湖のエリー湖畔で、「ウィ~ン」と…電気の振動のような、というか、空気の震動のようにも思える…かなりハッキリとした高い唸り音が辺り一帯に響いたという、怪異な報告譚。
地元住民の証言によれば、それは「夏の日没から日の出の頃にかけての時間帯」だという。
「眠りを妨げられるヒドイ音なんだよ」とこぼす老人もいた。
その音の発生源、正体が、魚類研究の専門家から明かされる。
イサリビガマアンコウ。
「いさりび」のような「あんこう」だから「ちょうちん」みたいな発光器をもつのであろう、ガマ(蝦蟇)のような姿をした魚。
ほとんど海底にへばりついて餌が近づくのを待ち、たまに動くにしても泳ぐというよりも這う感じの。
ナマズの親戚みたいな、などといったらナマズに怒られそうな…。
アンコウ属ではあるけれど、ふつうのアンコウとは異なるグループのガマアンコウ目、およそ3万種といわれる魚類のなかでも変り者。
この奇態な魚(上の写真下段=ウィキペディア)が、恋をする。
その恋の季節、初夏になると、(ふだんからあまり深い海には棲息しないが)濁ってあまり視界のきかない浅瀬に上がって来て、オスがメスの気を惹くために発する音、それがウルサイくらい(他の魚を威嚇するのにもつかわれる)の「ウィ~ン」なのだと。
発声器は〈浮き袋〉、イサリビガマアンコウの場合は、その筋肉が強力にできているらしい、もちろん水中では音が伝わりやすい、こともあろう。
とうぜん、大きい音をだせる者ほどモテる寸法、というわけだ。
ぼくは魚釣りをしないので聞いたことはないけれど、イシモチという魚が「グ~、グ~」と鳴くそうな。
それだって、まぁせいぜいが〈腹が鳴る〉程度のことだろう。
それが、イサリビガマアンコウの場合には「安眠妨害」ほどに罪深いという。
「おそれ入谷の鬼子母神」
研究者によれば、このような「しゃべる魚」は4億年も前からいたんだそうな。
すべての脊椎動物(魚類から両生類、爬虫類、鳥類、哺乳類まで)が発声をコントロールする共通の〈脳回路〉を持つと推測されている。
それも、イサリビガマアンコウの研究から判明したことだ、と。
しかも興味深いのは、回路はおなじでも声を発する器官はそれぞれに異なる、という。
とりあえず利用できるものを使うことで現実に対応していく、(腸が肺のルーツだったように)柔軟でしたたかな生物の本質を想うと。
「もっと自然〔じねん〕であれ」
そう気づかされ、諭される気分だ。
アンコウという魚は、「吊るし切り」という調理法でも知られている。
ぶよぶよとした魚体を捌きやすくするために大量の水を含ませ、鉤に吊り下げて包丁を使う。
しかし、この吊るし切りというのが、どう見ても美しくない、美的でないものは料理とはいえない。
そう言ったら、ひとつ頷いて「こんどやってみましょうか」と、ほほ笑んだ料理人がいた。
その人は後日ぼくの目の前で、まな板も動かさずにアンコウを捌ききり、しかも、最後にのこった魚体をサッと湯通しすると“アンコウのミニチュア”にして魅せてくれ、ぼくは、ただ唸るしかなかった。
吊るし切りも、ミニチュア造りも、おなじくパフォーマンスではあるけれど。
どちらが自然〔じねん〕かは、いうまでもない。