◆殻付き牡蠣…無上の醍醐味
新聞記事に、牡鹿半島(宮城県石巻市)からのカキ産直情報を見つけて、とびついた。
宮城県は、広島県に次ぐ牡蠣の産地。北部の唐桑半島には、〈山に木を植える漁師〉として勇名を馳せた畠山重篤さんたち“森は海の恋人”の有意義な活動もある。
寒流と暖流の混じりあう三陸沖は、プランクトン豊富な“世界三大漁場”のひとつ、あらためて識っておきたい。
鮮度保持が命の、生鮮食品の産直は、いま享受できる幸せの一極地である。
なかでも秀逸は殻付きの貝、とりわけ牡蠣にとどめをさす。
たくまざる“ナマのうま味ナマのあま味”に舌が精気をとりもどす。
牡蠣という貝は、厚く層をなして積み重なる殻がフィルターを想わせるからだろうか、(毒なこの世に)不思議な安寧感を抱かせる。
天然のカキは岩に固くへばりついているのを、バールのような鉄梃子〔かなてこ〕で抉〔こじ〕るようにして掻き取り、積層フィルター状の欠けやすい殻から、身を掻き出して喰う…から「かき」なのだそうだ。
外見はごつごつ手ごわい殻の、中はなめらかなパール・シルクのベッドに、濃厚な“海のミルク”がプルルンとしている。
殻付き生牡蠣、ぼくの初手の産直は伊勢志摩の“的矢〔まとや〕かき”http://www.seijyoumatoyakaki.com/だった。
真珠の海で、独特の養殖技術で生産される〈清浄牡蠣〉には、身の縁ぺらに黒ずみがなく、なんとも気品のブルーグレー。
この清らかさに、ことにも女性はよわく、貝の身の黒ずんだびらびらが苦手なうちのカミさんもまた然り。
養殖場で試食するなり「これはいいわ」と声をあげ、剥きたての生牡蠣を食べたい一心のぼくは、めんどうな軍手と殻むきナイフ使いも厭〔いと〕わなかった。
◆焼かき…俗に“がんがん焼”
狐崎浜…という民話の舞台によさそうな名の地が、牡鹿半島の中ほど石巻湾側、半島周回道路からは外れた崎にある。すぐ南の海上には“ネコの島”田代島。
いうまでもない《3.11》被災地のひとつ、養殖施設を津波で失った。
「岬焼かき産直セット」は、ここの「狐崎水産六次化販売」http://www.kitsunezaki.com/から。
殻付きかき(加熱調理用・M)15個が専用の缶に入って送られてくる。缶は方形の〈天切り缶〉と呼ばれるもの、ふたに蒸気を通す穴が開いていて、中に水を入れて直火にかければ7〜8分で蒸しカキになる仕組み。
産地の浜では「がんがん焼」などと呼ばれ(缶々焼…だろうか)たりもしているようだ。
卓上コンロひとつあればテーブルに浜の香りがファーっと広がり、ナマと違って殻むきも楽(軍手と殻むきナイフが付いてくる)。レモンでも添えれば口福ニコニコものだし、なくったっていっこうに、さしつかえない。
またたくまに食べおえて…缶が、殻むきナイフがのこっているのを見ると(もういっぺん)やってみたくなる。
もちろん「おかわり生かき」の用意もあって、リピーターの「お願い」の声がうれしく励みになっている、そうな。
ところで……
「牡蠣」の名に〈牡〉の字がつかわれているワケ。
ものの本によれば――イタボガキという種類は雌雄同体、同じ個体に雄(牡)と雌(牝)の性が現れ、若い時はオスが成熟するにしたがってメスが多くなるらしい、それが「牡蠣」とされた理由は、たまたま獲れたものがみな〈牡〉でメスはないものと信じられたため――という。
はて……
また、そうだとして、カキの雌雄はどう見分けたらいいのか、ワカラない。
いずれにしても「カキのシーズン」とされる「Rのつく月」も、もうじき4月まで。
これは(Rのつかない)5〜8月が産卵期にあたって味が落ち、腐りやすからでもある…というが、“夏がき”呼ばれて賞味されるものもある。
どうも、よくワカラない。
そのせいか、ぼくは牡蠣を見るとつい“蜃気楼”を連想してしまうのだ…。