どこゆきカウントダウンー2020ー

2020年7月24日、東京オリンピック開会のファンファーレが鳴りわたるとき…には、《3.11》震災大津波からの復興を讃える高らかな大合唱が付いていてほしい。

ちょっとヒトコト…フタコト…ミコト ~No.62~ 「ぱらり壁」 

-No.2088-
★2018年06月10日(月曜日)
★11.3.11フクシマから → 3014日
★ オリンピックTOKYOまで →  410日
★旧暦5月8日上弦の月
(月齢7.1、月出11:23、月没....:....)







★「ぱらり」と生きる…むずかしさ★

 「はらり」と桜花、散って、およそひと月。
 この、かけがいのない春迎えの候が、まことに短い。
 歳を追って、ますます切迫してくる感さえある。
 気の所為〔せい〕だと思おうとするのだが……
 いっとき空をにらんで「うむ」とナットク。
 いよいよ…の、夏の到来にそなえる気が、重い腰をあげる頃。

 「ぱらり」の想念が、ふと、湧いて出る。
 「ぱらり」という表現、それにともなう態度は「はらり」から出たものらしい。
 「はらり」のさり気なさを、意識的に気づかせるのが「ぱらり」といってもいい。

 「ぱらり」を、辞書でひもとくと。
 解が、ふたつ。
 ひとつは、「ものが軽くこぼれおちるさま」、あるいは「まばらに散らばるさま」。
 もうひとつが、「のこるところがないさま」。

 わかりやすいのは、調理の表現だろう。
 「ぱらりと、塩をふる」と言えば、「まんべんなく、くどいほどでなく、さらりと」である。
 この人の指さきの感覚、精製塩ではつかみにくい、やっぱり<粗塩>である。
 「ひと塩」というのがこれで、つぼ〔・・〕にはまれば「一入〔ひとしお〕」の味わいを生むことになる。

 「ぱらぱら」と重なると、さらに念が入ったようで…じつは「ぱらり」より「まばら」にすぎない。
 つぼ〔・・〕などおかまいなし、だから、細やかさもなにもない、ほとんど放ったらかしといっていい。

 「ぱらり」が、すばらしいのは、そこで。
 これが表現のさき、態度になると、ひとつの究極かと想われる。
 ぼくは、人を評するのに「ぱらり」をつかうことがある…けれども、めったにはない。
 「さらり」とした人はあっても、「ぱらり」とした人物は稀有だからで。
 ぼく自身は…いわずもがな……
 「ぱらり」を望んで、「ぱらぱら」生きている。

  ……………

 「ぱらり壁」という、左官仕事がある。
 右上の写真が、その壁面の部分だが……
 一般には(なんのこっちゃ)であろう。

 「漆喰」など、鏝〔こて〕で仕上げる塗壁の一種で。
 土や石灰などの左官材料に、ひび割れ除けのつなぎ〔・・・〕と、増量も兼ねた「苆〔すさ〕」と呼ぶ混ぜものをする、そのひとつ。
 また、その<仕上げ>の名称でもある。

 わかりやすく言ってしまえば(乱暴な話しながら…)
 京都御所とか桂離宮の建物の壁に見られる仕上げだ。
 昭和の…高度経済成長の初期くらいまでは…他所の寺社やお邸などにも見られたものだが、いまは希少なものになった、ということである。

 「ぱらり壁」の「ぱらり」は、仕上げて乾燥したあと、塗り壁面に「ぱらり、ぱらり」と不規則な粒模様が浮き上がることによる。
 その「ぱらり」感が、童女のほっぺ(さわりのない産ぶ毛)のごとく、なんともいえず佳い。

 …のだ、が。また一説には
 「仕事が<ぱらっ>と簡単で、塗り替えもしやすいものだから」ともいわれて。
 しかし、これは辞書にありがちな「実感を欠いた説明のための文」にすぎない。

 なぜなら、御所の壁につかわれる「ぱらり」、原料には北海道襟裳産銀杏草を用い(ふつうのスサは藁とか麻あるいは紙)、漆喰への石灰配合にも細心の気を配って幾度でもテストを繰り返し、なおかつ、塗りにかかれば「ひと塗り」仕上げ。まんがいちの不出来があれば、いちからやり直すほかはないのだ。

 これ、「茶の湯」の利休の世界に通ずるものではないか。
 つまり、原初、藁などのスサを混ぜた壁土でざっとひと塗りに仕上げた壁が「ぱらり」であった。
 が、のちにはこの「ぱらり」感に、えもいわれぬ美意識を投影し、技法にも洗練が凝らされた……

 職人でなし、美術家でもないぼくが、なぜ、こんなことを知っているか、といえば。
 人生の、いよいよホームストレッチにかかってから、日本の住環境と原風景に目覚め。
 木・紙・土の素材探求にのりだしたからであり。
 いちから職業訓練学校に通って、学びもした。

 ただし、これからのかぎられた時間では、さすがに3種は無理。
 「木」と「紙」にしぼることにしたので、左官技の方は極く基本までしか知らない。
 「ぱらり」壁を塗るどころか、材料の調合さえおぼつかない。

 ただ、その感覚らしきものには親しめるところがあって。
 かわりに探して見つけたのが、「ぱらり壁」ふう壁紙。
 これで、わが家の2階トイレの壁を仕上げたのが、左の写真。
 これで、いくらかでも「ぱらり」感をおわかりいただけるだろうか。

  ……………

 この世には…というか人知の世界には…写真でも言葉でも説明しきれないものがある。

 あとは、ごめんなさい、実際を見ていただくしかない。

 漆喰のような白い塗壁で、その質感「すらり」としていなかったら。
 「ぱらり」ふうに感じられたら、「この壁の仕上げは…」と訊ねてみていただきたい。

 苆〔すさ〕の、ひと粒ひと粒。
 鏝でコーティングされた壁材から水分を吸って、なめらかにうつろう。
 その際〔きわ〕に、童女のふっくらほっぺの産ぶ毛感、ぜひとも、あじわってみていただきたい……