どこゆきカウントダウンー2020ー

2020年7月24日、東京オリンピック開会のファンファーレが鳴りわたるとき…には、《3.11》震災大津波からの復興を讃える高らかな大合唱が付いていてほしい。

水母(くらげ)族の優雅なふるまい…を想うこの季節/梅雨の匂いの向こうに夏の風…透ける

-No.1725-
★2018年06月12日(火曜日)
★11.3.11フクシマから → 2651日
★ オリンピックTOKYOまで →  773日



カツオノエボシが早くも湘南海岸に姿を見せた、と。新聞に報じられてボクは吃驚でした。母の実家が藤沢にあった幼児期、夏になれば江ノ島海岸での海水浴が愉しみでしたが…。夏休みも終わりに近い8月後半になると荒い土用波が立って、遊泳禁止になったりするのでしたが…。その同じ頃にあらわれて怖れられたのが<電気クラゲ>すなわちカツオノエボシでした。<電気クラゲ>は刺されると激痛がはしることからの俗称で、ボクは幸い刺されずにすみましたが、救護所に運びこまれる被害者を恐る恐る覗きに行ったことをヨク覚えています。カツオノエボシの正体を知ったのは、その後、最初は図鑑でした。長い触手がいかにも悪魔的なこの刺胞動物は、浮き袋が烏帽子の形に似て、海流にのってやってくるのがカツオの季節だからの命名です。けれども、ボクにはヨットの帆のように思えました。そうして、この怪しげな紫色に縁どられた烏帽子が、茅ヶ崎海岸にある烏帽子岩の影像とあざやかにマッチしてボクの記憶をいまも彩っているのデス。このクラゲの触手に触れると発射される刺胞に猛毒が仕込まれている仕掛け。この技をくりだしてカツオノエボシは、ときに、1日に100匹あまりの小魚を喰うこともあるそうな。そんな怖ろしかヤツがことしは暖海流の早い接近で、烏帽子に風をはらんで海岸に寄せて来たものらしい。万がいち刺されてしまったときは…海水で洗い流して刺胞を除去すること…といっても、ボクのは伝聞の経験でしかありませんけど。ことしの湘南海岸に遊ぶ予定の方は、どうぞ、お気をつけください! ませ*







◆『くらげ骨なし』

 実物に接するより先に、見るよりも早くに、知ってしまう…というモノ、コトが、成長の過程でいくつかあります。
 「クラゲ」という、なんとも<あやふや>な生きものなんかも、そのくちで。
 おそろしいことには、まだ正体の知れないうちから、ちゃんと<面妖>という抽斗に納まってしまう不思議。

 まず、はじめはお話し、いまでいう<読み聞かせ>からでした。
 『くらげ骨なし』という昔話は、子ども心にも無理筋いっぱいの荒唐無稽なものでした…が。
 竜宮城の軽輩(たしか門番かなにか…でしたね)で、お調子者のクラゲがドジって、竜王様の怒りにふれ、それまではあった骨を抜かれて<骨なし>にされてしまう態〔さま〕だけは、驚くほどシッカリと記憶の襞に刻みつけられているのでした。

 ぼくは、このお話しを想い出しては(ハテ…ワカラン)首を傾げて、ただ、自分もこれから大きくなって仲間入りすることになるらしい大人の世界には、きっと、こんな理不尽なことがいっぱいあるのだろうな、という予感めいたものに襲われ、ついには夢にまで魘されてオネショ…の苦い経験がありました。
 ついでに、クラゲのような奴と思われるのは不名誉なことだ、との認識もいただいたわけです。

 最初に見たクラゲは、浜辺で、海藻の束にからまった半透明の、ゼリーみたいな代物(ゼラチン質)。もちろん生きてはいなくて。それで…つまり…神秘的でもなんでもなくて、(なぁんだ)と軽い失望感をあじわいました。
 ちなみにボクは、ゼリーの食感を好みません。

 さらに、アルコールを摂取する年齢にまで育って、中華料理の前菜「くらげの酢の物」、そのシャキシャキした食感のよさにしばらくハマりました。ゼリーのようなイメ-ジは霧消。
 どう見ても水分率80%くらいはあるでしょう、クラゲの傘が干しただけで活きのいい食感になるのに驚き、フシギ感が復活したわけです。

 その頃から「くらげに癒される」水族館ファンが、おもに女性に多くて。
 ぼくのまわりにも2~3人の「くらげファン」女友だちがあり、水族館デートの経験もあって。
 しかし、もっぱらお魚ちゃん好みだったボクは、クラゲの水槽に張り付くようにして動かない彼女たちを不思議な目で眺めていました。

 そうして、幾星霜……
 「世界一のクラゲ水族館」として一世を風靡した、山形県鶴岡市加茂水族館(60種類1万匹以上を飼育)を訪れるチャンスがあって、むかし懐かしさもあって、しばらくぶりにクラゲの水槽(クラゲドリームシアター)に張り付いていたら、(そーかぁ!)ピッと閃いてしまったわけです。
 ストレスを低減させる<癒し効果>のほかにも、クラゲの存在が見る者に、心理的な、さまざまな影響をもたらす効果があることに…デス。

 …………

 調べてみると、まず、クラゲと呼ばれる生きものの、「帯」と呼びたいくらい幅広い生命体の集まりであることに呆れます。「刺胞動物門」という名称も、生物より<妖怪>に近いイメージで刺激的。

 おおまかに(広義に)分類すると、以下の2種類。
 ①刺して毒液を注入するタイプ、「刺胞〔しほう〕」で餌を捕る「刺胞動物」(クラゲ属の多数派)。
 ②粘着性の「膠胞(こうほう=粘着細胞)」で吸いついて餌を捕る「有櫛〔ゆうくし〕動物」(クシクラゲ類の少数派)。

 ですが、刺胞動物のなかにはさらに、〇ヒドロ虫綱(カツオノエボシなど)、〇十文字クラゲ綱、〇箱虫綱、〇鉢虫綱が含まれ、しかも、そればかりではありません。
 まだまだ他に、クラゲの名で呼ばれる生物が複数の「門」にわたって存在し、おなじみの「浮遊生活」をする者にくわえて<菌類>も<藻類>も混じる多彩ぶり。
 その得体の知れなさに、<幽界>を覗くような趣きさえただようのです。

 クラゲは、その成長の過程も興味深くて。
 ①受精卵 → ②プラヌラ(保育嚢から泳ぎ出て岩など見つけて付着) → ③ポリプ(定着してイソギンチャクのような姿になり、分裂や出芽などで殖え1mmほどの大きさに育ちます) → ④ストロビラ(くびれて花びらを重ねたような姿になります) → ⑤エフィラ(ストロビラの上端の〝花びら〟から順に1匹ずつ水中に泳ぎだします) → ⑥稚クラゲ → ⑦成体(クラゲ)

 このなかでも「ポリプ」の時期が、クラゲのもっとも特徴的な形態で。
 「ポリプ」は、好ましくない悪環境のもとでは組織塊となって耐え忍ぶことができます。擦りつぶされても、細胞さえ死ななければ再生する強さがあるそうです。
 また、プラヌラからポリプまでが「ポリプの世代」と呼ばれて<無性生殖>の時代。つづくエフィラから成体までが「クラゲの世代」で<有性生殖>の時代。

 このへんの、めまぐるしいばかりの旺盛な生命力が…ひょっとすると、女性に生殖の神秘と不思議を想わせるのかも知れない気がします。
 ヒトの粘膜などにできる似た形状のものも「ポリプ」と呼ばれるて、たいがいは良性の腫瘍であることが多いけれども、ときには癌化することもある…と知られてもいて。
 それが、しかし、シンと深い薄気味のわるさを伴いながらも、繊細巧緻な生命システムの妙を感じさせます。

 <単純>に見えて<複雑>の極み。
 クラゲが地球上に出現したのは、いまからおよそ5億~6億年前といわれ。
 それから、その形態はほとんど変わっていない。
 ということは、とりもなおさず「機能的で完成されたカタチ」ということになります。

 …………

 クラゲの弱みは、水中生活者でありながらけっして泳ぎが上手くないこと。
 プランクトン生活から脱してのちも、遊泳能力のすべては傘を開いたり閉じたりするだけの、それも断続的なものにすぎなくて、あとは水の流れにまかせるのみ。
 ですから水族館などでは、ときおり<水流>をつくってやらないと、沈んで、やがて死んでしまうといいます。

 それでいて、ほかの生きものたちから見たらウラヤマシイような<もちあじ>のかずかず、いま、わかっていることをあげてみましょうか。

 ①「神経系をもった最初の生物」の称号はクラゲのもの。つまり、これで外部からの刺激に的確に反応できるようになりました。
 ②眼にレンズと網膜をもつものがあって、映像が見えている可能性もある、とか。
 ③眠ることを覚えた最初の生物でもある、といいます。
 ④分裂して分身をつくる無性生殖のポリプ時代は、共食いをすることもあるわけですが。その場合も、自分の分身と他のソレとを見分ける能力があって、もちろん食べるのは他の分身です。
 ⑤餌がなくなると体を小さくし、餌が多くなれば体を大きくできます。
 ⑥ベニクラゲ類の場合には、弱ったクラゲはいったん肉塊となって耐え、ふたたび時期をえてポリプに再生し、やりなおすことができる…つまり<不死若返り術>をもつといいます。変態する種もある。
 ⑦天敵がほとんどありません。水分ばっかりで栄養価の低いクラゲを好んで捕食する者はない、からです。

 …………

 おしまいに、日本でも最近エチゼンクラゲの大発生が話題になったりしましたが。
 その大発生の原因をあげると、➀競合相手が減る(人間による魚類の乱獲による)こと、➁海岸コンクリート構築物などの増加がポリプに付着場所を提供していること、③これも人間生活による水質汚染がクラゲには好都合なこと…と、たくみにヒトのウラをかく生きざま、「おみごと」というほかありません。

 漢字では「海月」か「水月」、あるいは「水母」とも書いて幻想の世界に浮遊するクラゲ、そのじつは<しなやか>で<したたか>な水界の忍者が正解…なのかも知れませんネ。