-No.1422-
★2017年08月13日(日曜日)
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◆恙無しや…
日本史であったか、それとも古文であったか。
「日出ずる処の天子、書を日没する処の天子に致す。恙無しや」
聖徳太子が隋の煬帝に送ったという国書の文言にふれたとき。
ぼくは、ツツガムシ病(恙虫病)に想いがとんで、ずいぶん混乱させられたことをよく覚えている。
(万事これだからボクは思考も知識も散漫系なのダ)
古語辞典を調べ、「恙〔つつが〕」に「病気」「患い」「災難」「さしさわり」の意があることを知り、太子の「恙無しや」の問いかけに親身あふれることを知り。
また、当時「つつがない」暮らしというのが、どれほど尊いものであったかに感じ入ったことだった。
そうして、想いの連想が唱歌『ふるさと』の、
「つつがなしや~ともがき~」
にいたって、涙ぐましくもなった。
そのいっぽうで……
ツツガムシ病というものに、得体の知れない畏怖と厭悪感を抱いた。
それがどんな病状のものかも知らないのだから、とうぜんのことであった。
ただ、新聞で読んだのではないナ…きっと(その時代の映画館ではジョーシキだった)本編上映前に映写されたニュース映画、モノクロのくすんだ画像で知らされたと思う。
「恙」なる文字に、胸のムカつくような…そう、たとえば肺腑をいきなり擽〔くすぐ〕られるとか…そんなふうに薄気味のわるい感情が定着した。
いかなるものなりや?
調べてみる気にもならなかった。
人は、ヒョンなことからヒョンなことをする、生きものだ。
気がついたら、「ツツガムシ」「ツツガムシ病」を調べていた。
この夏の容赦なくシツコい暑さの所為かも知れない。
結果。
ツツガムシがダニの一種であり、「恙虫」「恙虫病」の命名も、古語(といってよかろう)「恙」に由来すると知れた。
カラスが鳴くのはカラスの勝手、名づけて差別するのは人の勝手、わるい癖。
でも…調べただけで痒い。
古来、病因がハッキリとせず、病状・病態もさまざまでわけのわからないところがあり、そんなところから「恙」とされたものだろう。いまでいうインフルエンザのような初期症状というから、「怠い」「気がすぐれない」ことが知れる。
長らく(恙虫という妖怪がもたらす)風土病とされていたのが、やがて病因がダニと知れてこれに「恙虫」の名がつき、このダニの幼虫に刺されることによる感染症と判明して「恙虫病」となった。
感染症ではあるが、伝染性や人から人への感染はない。
…とはいえ、知っただけでなにやら虫酸のはしるような。
刺し口の赤く腫れるのが唯一の目に見える証しで、この初期に病因をまちがいなくつきとめ、適切な治療がなされればすみやかに治癒するが、誤ると長引いていまでも死にいたることがあるという。
古書『絵本百物語』に描かれた「恙虫」を見ると、頭と尻に鍬形のハサミをもったムカデ爺のような姿カタチで厭らしい。
ぼくは、どんなことがあっても一生、どうか「ツツガムシ病」にだけは罹りたくない……