どこゆきカウントダウンー2020ー

2020年7月24日、東京オリンピック開会のファンファーレが鳴りわたるとき…には、《3.11》震災大津波からの復興を讃える高らかな大合唱が付いていてほしい。

《3.11》2014晩夏の巡礼-1日目-①丸森町筆甫/「ひっぽ、2歩、散歩」いいネ、こういう駄洒落ふう

-No.0373-
★2014年09月29日(月曜日)
★《3.11》フクシマから → 1299日
★オリンピック東京まで → 2125日





◆筆甫〔ひっぽ〕再訪

 宮城県の南の外れ、丸森町にある筆甫地区を目指す。
 前に1度、これで2度目だ。

 前は、《3.11》の地震・大津波原発爆発さわぎなど夢にもなかった頃。
 「筆甫」という珍奇に思える地名の由来が、じつは伊達政宗が自領の検地を「始めた地」、つまり帳面づけの「筆…甫〔はじめ〕」からきていることを知ったときだった。
 ボクには「ひっぽ」が「いっぽ」に響いた。
 「ひーっぽ」とはどんなところか、ぜひ、訪ねてみたい。

 しかし、たいへんな道中だった。
 何処かからの帰り路に、ふと立ち寄ってみようと思いたち、国道から逸れて寂しい山道へ、ほとんど迷い込んだことだけ、ハッキリと記憶がある。あとは朧。
 (カーナビなど、あのころはまだなかった)
 この辺でもうヤメておこうか…なんども思いながら駆け上がっていくうちに、いよいよ日も暮れかかった谷間の小開地で、田んぼにポツンと見かけた人影に道を訪ねたら、「ここが筆甫ダ」と。
 
 ぼくは、へたり込みたくなった。
 そうして、あらためて下の方に目をやると、夕焼け色に縁どられて開けた谷筋が、のどかに閑かに見渡せた。
 ぼくは道端に停めた車を離れ、道の真ん中へ行って、秘かにやってみたかったことを実行した。
 「ひーっぽ」と。
 ただ、それだけのことだったのだ、けれども…。

 このたび2度目は、東北自動車道・国見ICから国道349号のルート、『智恵子抄』の阿武隈川に沿って下って行く。
 1度めの経験から、人に出逢うこと稀な筆甫…の印象がつよいぼくは、訪ねる場所を人で探そうと思った。
 さいわい新聞に“里山カフェ”の記事を見つけ、ここを目標に、カーナビに入力しておいた。
 そのカーナビが丸森市街の手前で、左折(北の方角)を指示してきた。

 ぼくの脳内地図では、筆甫へは右折(南の方角)のはずだった。
 納得できないことが苦痛なボクは、車を路肩に停めて地図を見る。
 目指す“里山カフェ”は大張地区、筆甫とはまた別の地域なのであった。丸森町というだけでとびついたボクのテッキリ思い込みミスは、よくあるパターン。
 ともあれ、目指したからには行くのだが、そこに辿り着くのにも紆余曲折があって、やっと見つけたと思ったら「休業日」、これも珍しいことではない。

 ふと路傍に、「棚田」への案内板があるのを見つけて、訪ねてみた。
 「川尻の棚田」は、田んぼ15枚ほどの小規模ながら、稲の緑は元気。
 こんなふうに、チョンボに見返りもけっこうあるのが、旅のいいところ。

◆やっぱり人に逢うこと稀なところ

 気をとりなおして、カーナビに〈丸森町筆甫肘折〉と入力し直す。
 丸森市街から筆甫への道は、普請が進み道幅も広くなったのだろうか…前に来たときの記憶とマッチするなにものもなかった。
 そうして、これだけは同じ、奥へ上へと進むうちに車も人影もどんどん少なくなっていき、やがて対向車も稀になってくると、人気もなくなった。
 ただ、人家はあり、手入れもされているのが救いではあったけれど…。

 肘折という集落は、どんづまりに近い二股の岐れ道。
 右に行く地方道は県境の峠を越えて福島県伊達市へとつづき、もうひとつの左へ行く地方道は県境の峠手前までしか通じていない。
 けれども、爆発事故のあった原発からは離れていたにもかかわらず、放射能汚染ホットスポットの憂き目に遭わされた福島県飯舘村は、すぐ目と鼻のさき。

 筆甫地区は、同じような原発被害を受けながらもこの〈県境〉のため、賠償額に2倍近い格差をつけられて、少しだけ話題になった。
 (そういえば、土嚢の山が筆甫地区には見られない)

 バス停そばの小さな店に、老婆の姿があった。
 尋ねると、「こんな山奥が、アレからは、もっと人が来なくなってしまった」と嘆く。汚染のひどい地区は「もっと県境の方、ここらはたいしたことないがね」ということだった。

 ぼくは、ほかにもう、どうする手だてもなくなって、しかたなく来た道を戻る。
 その途中、道端に、少し古びた観光案内板が《3.11》前の明るい気分を語りかけていた。
 タイトルにいわく、「ひっぽ、2歩、散歩」。
 ぼくの発想とおんなじ…。

 市街に出て阿武隈川の畔を通ったら、看板製作会社の屋根に「奥さんと看板はいつもきれいに」のメッセージを見かけた。
 丸森町というところ、どうやら洒落っ気のあるところらしい。
 (もう一度、こんどは逢いたい人ときちんと約束をしてから、来ることにしよう)
 ぼくはすっかり、気をとり直していた。



*写真・上段、(左)は丸森町大張地区の「川尻の棚田」、(右)は筆甫地区の観光案内板「ひっぽ、2歩、さんぽ」がいい*
*写真・下段は、筆甫地区に開ける谷筋の水田風景*